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Force-freeモーメント

 
Figure 2: 電流が流れるときの磁束構造の歪み。(a)は磁気圧が、(b) は線張力が働く場合。(c)はforce-free電流が流れる場合。

一般に電流が流れる場合、磁束の構造に歪みが生じる(超伝導体で は、磁界の強さと磁束密度 との関係はで与えられる)。例えば磁束と電流が垂直な 場合は図2(a)(b)のように磁束密度の勾配や磁束の曲がりに対応し た歪みが生じ、それぞれ、歪みを無くすように磁束に対して磁気圧、 線張力が働く。これらは共にLorentz力として知られ、Maxwellの応 力テンソルによって表される。一方、磁束と電流が平行な場合 (Lorentz力が働かないのでforce-free状態という)においても磁束 は図2(c)のような扇を開いたような捩れ歪みを有する。したがって、 (a)(b)の場合から、その歪みをなくすように矢印のようなモーメン トが働くことが類推される。このモーメントをforce-freeモーメン トと名付けよう。では実際にforce-freeモーメントは存在するので あろうか。力学では力なくして力のモーメントは存在しない。した がって、これは純粋に電磁気学のみにおける問題である。

モーメントが存在するかどうかを確かめるには、一様な磁束構造から図2(c)のよう な歪みを導入したときのPoyntingベクトルを求め、上昇するエネル ギーを求めればよい。これによりモーメントの存在が証明される[2] 。この存在は実験的に証明されたわけではないが、縦磁界 下における臨界電流密度もまた横磁界下と同様にピンニングの強さ に依存していることから、図2(c)のようなforce-free状態はピンニ ングなしには不安定であると考えられる。こ の場合の静的状態はforce-freeモーメントとピン力のモーメントと の釣り合いで与えられる。なおforce-free状態が安定であるとい うJosephsonの理論があるが、これはJosephsonの式が成立しないこ とに関連したゲージの取り方の誤りに起因している[3]。

これに類似したモーメントとして、磁界中に斜めに置かれた棒磁石に働くモーメントが思い出されるかも知れない。一般的に知られているように、こうしたモーメントは磁石の端の部分の等価的環状電流に働くLorentz力のモーメントとして表される。しかし、今のforce-free状態では歪みの構造は等価的環状電流によって表すことができず、全くLorentz力が存在しないため、こうした旧来の議論は当てはまらない。言い換えると、こうした問題は極めて基本的な問題であるが、かって古典的電磁気学の中で議論されていないのである。多くの人々が行き来する雑踏の中に1億円の小切手が落ちていて、それが長い間気づかれずにいるようなものである。誰もそんなすぐ手の届くところに前世期的な大問題が転がっているとは思いもよらないであろう。その結果として、上で述べたような高温超伝導体の抵抗発生の機構に関する議論が派生している。

なぜこの問題が発見されなかったのであろうか。これが超伝導現象 に関係しているためであろうか。そうではない。図2(c)のような構 造は超伝導体でなくても現れる。根本的にはそうしたモーメントは 一般的な内力であり、通常外には現れない。このことに原因がある のであろう。つまり、磁束の間に働くモーメントであり、これと 釣り合うのは材料の欠陥に働く反力(ピン力)のモーメントである。 したがって材料に生じる歪みを測定すれば知ることができる。もっ と直接的にモーメントを測定する方法もあるが、紙面の関係上ここ では触れない。この方法については文献[4]を参照されたい。



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otabe@cse.kyutech.ac.jp
1996年11月20日 14時43分47秒