実験をなぜやるか。この目的がはっきりしていないと、いわゆる砂 ( 目的をはっきりさせる) 上の楼閣になってしまう。ここで、本当は実験の目的について書き たいのだが、それ以前の話があるので、そこから書こう。
まずよく考えて頂きたいのは、なぜ研究室に配属されて実験をする ことになったのか、ということである。もっと戻ることにしよう。 大学に苦労して入ったけれど、目的を失って大学生活をぼーっと過 ごしている学生さんが少なくない。しかし、初心を思い出そうとし ても、気がついてみたらこの大学に来ていたということがあるらし く、ほとんどそこに目的を感じられないらしい。このような状況で はほとんど何もできない。
しかし、社会やあなたの親は多大の力をかけて一人の若者であるあ なたを育てているところだ。あなたが将来社会に対して大きく貢献 することを期待して、勉強や修行の場を多大の時間と費用をかけて 準備しているのだ。この機会を多いに生かすべきである。
予備校の先生は次のような話をするそうである。自分が死ぬときに 一体なにが残るのか?何もしなかった人、頑張らなかった人はそん なときにとてもむなしいのではないのか...と。
こう綺麗事を書いていてもちっとも役に立たないかも知れない。し かし先輩は後輩を指導するにあたって「あいつは全然働かない」と ぼやくのではなくて、なんで目的意識を持てないのかを細かく考え て検討してあげる必要がある。いい本がある。カーネギー著、「人 を動かす」[1]、これにはその辺のポイントが実に分かり やすく具体的に書いてある。これによると動かしたい人の欲してい るように周りの状況を整えるのが肝要ということであるようだ。詳 しいことはこの本を参照して欲しい。
世の中にはタバコを吸う人が多い。タバコはお金がかかるし、健康 に悪く、世間の目も最近は厳しい。そういう「不利益」なことがあ るにもかかわらず、気分転換であるとか、コミュニケーションをは かれるとかいう「利益」があるからこそ吸うのだ。CDを買う、ゲー ムセンターに行く、マージャンをする、寝る、食べる、実験をする、 にはそれぞれ「利益」と「不利益」がある。それら中で「利益- 不利益」が一番大きいものから人は優先順位を決めて実行に移す。 したがって、大学での研究生活で得られるものが大きいと考えられ れば、優先順位はあがり、自然といろいろなことにチャレンジした り知識を増やしたりする方向に行く。
では研究生活の中での実験でいったい何が得られるのだろうか。大 ( 研究室は3年生までの学習と違う)学で習ったことは社 会では全く役に立たない、とはよく言われることである。本当であ ろうか?ある面では正しいだろうが、もし正しいのだったら大学に 進学する意味なんて全く無い。大学では研究室に配属される前まで は知識を養うことに重点がおかれている。そこで、社会で要求され る知識との違いのために大学で習ったことは役に立たないなどと言 われてしまう。しかし研究室では実験などを通して具体的に動くこ とが中心となる。
社会で要求される重要なものの一つに、問題解決能力がある。まず 問題を( 問題解決能力を養う)発見する。次にさまざまな 解決方法を考えだし、その中から最適な方法を見付ける。そして実 際に問題を解決する。これは実験を通じて学ぶものと極めて似てい る。問題解決には経験、知識、判断、情報等が複雑に絡んできてい る。つまり実験を通じてさまざまな問題を解決することにより、自 分自身の能力を数段も引き上げることができるのだ。大学の研究室 にいるにもかかわらず、できるだけ仕事をしないで卒業した場合と、 できるだけいろんなことをして卒業した場合では、学部で得る知識 以上の差が現れる。
なぜ大学に来たのか。なぜ研究室で研究をしているのか。その答え ( なぜ大学に来たか十分に考えて欲しい。) をまともに答えられるのであれば、実験の意欲は十分であろうし、 この文章の目的はほとんど終えている。研究室で何を学ぶことがで き、何が自分の人生に自分の能力にとってプラスになるのか、時間 をかけて十分考えていただきたいところである。