実現した夢の技術! 超伝導エネルギー貯蔵

 1998年春、九州電力福岡市今宿変電所、SMESの系統接続が行われたとき、入江先生はどんな感慨を持ってこれを見られたことだろうか。

 入江冨士男先生はその時77歳、九州電力総合研究所顧問である。超伝導研究では国際的に知られた研究者であり、国内では学術への多大な貢献によりすでに紫綬褒章を受けている。

 SMES(Superconducting Magnet Energy Storage:超伝導磁気エネルギー貯蔵装置)は究極の電力貯蔵装置である。磁場により電気エネルギーを蓄える発想は19世紀後半に活躍したニコラ・テスラによりすでに考案されている。しかし通常のコイルでは電気抵抗のために蓄えたエネルギーは熱になってしまい、電力貯蔵はできない。超伝導体は電気抵抗がゼロである。超伝導コイルでは蓄えたエネルギーは減ることがない。超伝導技術により初めて電力貯蔵が可能なのだ。

 電気エネルギーは蓄えるのが困難である。したがって、使う電気はその場で発電する必要がある。そこで電力会社は夏のピーク電力に合わせて発電所を作る必要がでてくる。SMESを使えば、夜間発電した電気エネルギーを磁気エネルギーとして蓄え、昼間に逆に磁気エネルギーを 電気エネルギーに変換して使うことができる。その効率は非常に高く、また変換は瞬時に行うことができる。可動部分が無く化学変化を伴わないので長寿命である。

 入江先生は1969年に“Some Fundamental Problems of Superconducting Energy Storage”(超伝導エネルギー貯蔵装置の基本的な諸問題)と題する論文を発表している。SMESの運転におけるわずかな損失を初めて理論的に示した。まだ世の中に超伝導コイルがほとんどないころである。この論文はすぐにアメリカのブーム教授が注目し、SMESの実現に向けての大きな前進となる。

 それからほぼ30年、夢が実現する。東芝、日立、富士電機、神戸製鋼といった日本を代表するメーカーと九州大学、福岡大学、大分大学、鹿児島大学など入江先生の門下生が協力し、SMESは完成した。そして日本で初めて電力設備として認可され、実系統に接続された。

 ここに展示している超伝導コイルはそのSMESの中で使われた6つのコイルのうちの一つである。このSMESにはさまざまな特徴がある。拡張性・信頼性を誇る2モジュール構成。漏洩磁場低減のためのトロイダル配置。電磁力支持を考慮した変形D型の超伝導コイル6個。コイルごとのFRP製液体ヘリウム容器、等々。

 完成わずか5年後、入江先生は癌で他界される。

 今、SMESは瞬低対策のためにシャープ亀山工場に導入され、次世代SMESの開発も次々と進められている。入江先生がこれらを見られたらどのような感慨をお持ちになるだろうか。


展示場所 5番の附属図書館分館から3番の共通教育研究棟に向かって行く階段横に超伝導コイルを展示している。
参考URL
入江冨士男先生によるSMESの解説記事(入江冨士男, 電学論B 116 (1996) 1029)
Boom教授の論文
牧直樹 SMESの解説
仁田旦三 SMESの解説

今宿変電所でのSMESの全体像。手前にある円形の容器内に超伝導コイル6個が入っている。


円筒容器の内部。6つのFRP容器でさらに分けられており、その中に超伝導コイルがある。


九州工業大学情報工学部で展示している超伝導コイル。