酸化物超電導体による交流通電測定用小型電流トランス 小田部荘司, 松下照男* 藤上純, 大松一也 (九工大・情報工) (*九大・シス情) (住友電工・電力研) はじめに 酸化物超電導体の交流応用が進められているが、基礎特性として直接交流電流を通電した ときの損失測定が重要となっている。しかし試料によっては必要な通電電流は数百A に達することも あり、その場合には大型の交流電源を持つ機関でしか直接通電をした損失測定が行えない。そこで Bi-2223 銀シーステープを用いて500 A を通電できる電流トランスを作製した1)。しかしあらかじめ Bi-2223 テープ材は熱処理されたものを使用したので、曲げ歪みによる特性の劣化を考慮するとさら に小型のトランスを作ることができない。また構造上、結合定数が低くなり効率が悪いという問題 点もあった。そこで本研究ではより小型で効率の良いトランスを製作するために、テープ材をWind and React 法で準備し、より小型のトランスを試作したので報告する。 設計製作 トランスの外観を図1 に示す。トランスの二次側で用いたBi-2223 銀シース多芯テープ材 は、直径28 mm のステンレスボビンに二回巻き付けた状態で熱処理をするといういわゆるWind and React 法で準備した。結合定数を向上させるために、図にあるようにコイルから直線部分への移行は 磁束が漏れないように、接近させた形にした。テープ材は2 枚を重ねて一つのバンドルとして扱い、 層間に絶縁は施さなかった。このバンドルを二組並列に接続してトランスの二次側の線材とした。 テープ材一枚の液体窒素、自己磁界中での臨界電流は37.5 A であった。したがって、二次側全体で 150 A の臨界電流密度になる。テープ材の直線部分は銅板とハンダ付けをし、銅板間に交流通電測定 をする試料をハンダ付けするようにした。一方、一次側は0.2 mmOE の銅線を用いて直径23 mm のボ ビンに570 回巻いた。一次側と二次側の結合をよくするために通常のトランスで用いられる鉄心を利 用した。 性能評価 測定されたトランスのコイルの77.3 K における結合係数k は0.79 であり、前回のトラン スの0.72 から若干改善された。77.3 K において二次側を銅板で短絡した際の、入力した一次側電流 と二次側電流(それぞれピーク値) の関係を図2 に示す。測定は35-2000 Hz の周波数範囲で行った。 二次側の最大のピーク電流は100 Hz のときに372 A となり、これは臨界電流の2 倍以上である。こ の時の一次側の入力電流のピーク値は2.27 A であった。Rogowski コイルの出力電圧波形をFFT ア ナライザーで観測したところ、基本周波数以外の周波数成分は観測されず、この周波数範囲では波形 に歪みは認められなかった。 図1 トランスの外観 図2 さまざまな周波数における一次電流と 二次電流の関係。二次電流は100 Hz で372 A に達している。 参考文献: 1) E. S. Otabe et al.: Adv. in Supercond. XI (Springer, Tokyo, 1999) p. 1393