[本開発研究の波及効果]

(1)縦磁界効果の情報発信

  縦磁界効果は臨界電流密度の増加や交流損失の低減など、工学的応用の可能性を持つ優
 れた現象ですが、発見後、50年にもなる今日においても、こうした応用は今回の超伝導ケ
 ーブルだけです。したがって、このケーブルの出現により縦磁界効果が大きく注目され、
 今後、新しい応用が生まれることが期待されます。

(2)超伝導線の新たな開発の促進

  これまで、Bi系テープやRE-123系コート線材などの高温超伝導体はテープ形状であるこ
 とから、応用上不利であると考えられてきました。しかしながら、こうしたテープ形状で
 あることから、ケーブル内でフォース・フリー状態を実現できるのです。金属系超伝導線
 材のような丸線では実現できません。このことは高温超伝導体に対する考え方を根本的に
 変えることになります。

  超伝導電力ケーブルに使用される高温超伝導線はどの程度の割合を占めるのでしょうか。
 例えば、1kmの長さの20kA級の超伝導ケーブルを製造する場合、4mm幅の線材を500km必
 要とします。電流容量に余裕をもたせ、またシールド層に線を使用するからです。したが
 って、現在の世界中の企業のコート線材を全部合わせても、ケーブルは10km程度しかでき
 ません。これでは交流ケーブルを含めて、世界中にケーブルを設置するのに数千年かかっ
 てしまいます。地球環境問題やエネルギー問題を今世紀の中ごろまでに解決しなければな
 らないので、現在の製造能力を2桁ほどアップしなければなりません。これは何を意味す
 るかと言えば、超伝導線の最大の市場が超伝導ケーブルであるということです。すなわち、
 テープ形状で使用する場合のほうが多いのです。

  また、現在の高温超伝導体の応用は通常の電力機器をターゲットとしており、ある程度、
 高い横磁界下で使用することを目指しています。このため、まず、電流容量を高めるため
 に超伝導層を厚くし、また、磁界特性を向上させるために人工ピンを導入するなどの工夫
 をしています。しかしながら、超伝導層を厚くしますと、一般に空隙が生じたり、a軸配向
 粒子が生成されたりして、超伝導組織が乱れ、電流が一様にではなく蛇行して流れている
 と考えられます。この場合、フォース・フリー状態とはならず、局所的にローレンツ力が
 現れることになります。図6(a)の厚い膜では縦磁界を加えているにもかかわらず、臨界電
 流密度が増加していないのはこうした理由によると考えられます。一方、図6(b)のように
 超伝導層が薄い場合、まだa軸配向粒子が生成されず、電流が一様に流れているため、明
 確な縦磁界効果が現れています。したがって、現状では、超伝導層が薄い線材を作ること
 が望まれます。また、人工ピンを導入した場合、確かに高磁界領域では特性が改善されま
 すが、ケーブルで使用されるような低磁界ではむしろ特性は劣化してしまいます。何も加
 えないほうが結果としてよいのです。換言すると、大きな市場を占める超伝導ケーブルの
 高性能化のためには、現在とは逆の方向への開発を行うことが求められており、線材メー
 カーへのインパクトは大きいと言えるでしょう。

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