[事業の計画(5年間)]
(1)臨界電流密度の測定法の確立 |
ただ、ケーブルに用いる高温超伝導体が薄膜やテープの形状をしているために、ただ単
純に長さ方向に平行な磁界を加えればよいというものではありません。その場合、電流の
自己磁界のために、必ず、テープ面に垂直な磁界成分が現れ、これが臨界電流密度を大幅
に下げてしまうからです。実際に、異方性がない金属系超伝導テープでは図5に示すよう
に臨界電密度が横磁界の場合に比べて数倍程度増えるだけで、数十倍から100倍に増える
図2の円柱状の線材の場合に遠く及びません。まして、異方性が大きく、垂直磁界成分に
非常に弱い高温超伝導体の場合、図6に示すように臨界電流密度は微小な増加にとどまる
か、または縦磁界によってもほとんど増えないことになってしまいます。
したがって、正確な測定のためにはこの磁界成分を完全になくしてしまう必要がありま
す。現在、製作されているケーブルのようにテープ線材を円柱のフォーマーの上に配置し
たような円柱対称性が保たれればそうした垂直磁界成分をなくすことができます。しかし、
一度に数1000Aもの大電流を流さなければならないので、巨大な電源を必要とし、簡単な
実験ですませることができません。つまり、誰でも簡単にデータを得て、ケーブルを設計
できるようにはならないのです。このため、容易に臨界電流密度が測定できる方法を確立
することが必要で、まず、それを最初に行います。
図5. Nb3Snテープの臨界電流。上が縦磁界下で下が横磁界下。
G. W. Cullen and R. L. Novak: APpl. Phys. Lett. 4 (1964) 147
(a)
(b)
図6. RE-123系コート線材の臨界電流密度。(a)は自己磁界中の臨界
電流密度があまり高くなく、a軸粒子などの成長によって電流の流れ
方が乱されているためと考えられる。(b) は電流の流れを邪魔する
欠陥が少なく、自己磁界中の臨界電流密度が高いもの。
(a) H. Safar et al. Phys. Rev. B 52 (1995) R9875-R9878.
(b) B. Maiorov et al. LANL Peer Review 2010
(2)臨界電流密度のデータの収集 |
(3)超伝導ケーブルの模擬試験 |
その方法は、図7のように軸方向からある角度θでテープ線材を巻きつけた1層を作製
し、その内側に電流Iを流し、外側から縦磁界Heを加えます。このとき、電流Iによる自
己磁界HIと外側磁界Heの合成磁界が1層に流れる電流と平行であるようにします(tanθ =
HI/He)。これによって、超伝導層ではフォース・フリー状態が実現できます。こうした状態
を保ち、超伝導層に電流を流してその臨界値を測定し、前もって得た臨界電流密度のデー
タから見積もられる特性に達したかどうかのチェックができます。これによってこの層の
模擬試験ができ、確実性を確かめるとともに、従来のケーブルと比べての優位性を証明す
ることができます。そしてHIとHeの割合を変えることによって、超伝導ケーブルの任意の
層における特性を検証することができます。
また、これは究極の測定法ですが、これによって(1)で述べた簡易測定法の有効性のチェ
ックにもなります。
図7. 超伝導ケーブルの模擬試験の構造
(4)超伝導ケーブルの設計 |