[ブレークスルー]

 

(1) フォース・フリー状態

  ローレンツ力は電流密度Jと磁束密度Bのベクトル積J×Bで与えられます。したがって
 電流を磁束に平行に流すことができれば、ローレンツ力は現れません。このような状態を
 フォース・フリー状態、すなわちローレンツ力がない状態と言います。しかしながら、そ
 れを実現しようとすると、図1(a)のように電流は扇を開いたような流れ方をすることにな
 ります。このとき、量子化磁束も電流と平行になって、同様に回転的な剪断歪をもつこと
 になります。電気抵抗がある通常の金属では電流がこのように流れることはありえません。
 必ず、電気抵抗が最小となるように図1(b)のように最短距離を平行に流れ、1(a)のような
 構造にはならないのです。したがって、電流が流れた場合、必ずローレンツ力が生じます。
 一方、超伝導体だけは電気抵抗がないので、電流のパスが長くなってもかまいません。


       (a)                   (b)

   図1. (a)フォース・フリー状態における電流の流れ。量子化磁束も同様な形状となる。
   (b) 通常の金属における電流の流れ方。

  それでは、現実にそうしたことが起こるのでしょうか。それは、電流が流れる超伝導線
 に平行に磁界を加えたときに起こります。これを縦磁界効果といい、図2のように通常の
 横磁界の場合に比べて大幅な臨界電流密度の増加が観測されています。この場合、超伝導
 体内部でフォース・フリー状態が実現していることがよく知られています。

         
   図2. Ti-Nb超伝導合金の臨界電流密度の磁界依存性。下が通常の横磁界の場合で、
   上が縦磁界の場合。
    Yu. F. Bychkov et al.: JETP Lett. 9 (1969) 404.

(2) フォース・フリー状態の実現

  臨界電流密度の大幅な増加などの特異な現象として知られる縦磁界効果はほぼ50年前に
 発見されました。しかしながら、そうした工学的に魅力ある現象でありながら、これまで
 にこの効果の具体的な応用は一切ありませんでした。それは、効果をもたらすための条件
 を実現する方法について考え付かなかったからかもしれません。
  今回、開発する超伝導ケーブルにしてもそうした問題点があるように思われます。何km
 もある長い超伝導ケーブルにどのようにして平行磁界を加えるのであろうかという疑問が
 まず起こるでしょう。長いコイルを外から巻いて平行磁界を実現するのでしょうか。その
 ような大げさなことをすれば、ケーブルのコストは極めて高くなり、実現は無理でしょう。
  答えは簡単で、電流による円周方向の磁界を外に漏らさないようにケーブルの導体の外
 側に遮へい層を設けるのが一般的ですが、図3のようにこの部分をよじって、流れる遮へ
 い電流によって軸方向の磁界を発生させるようにすればいいのです。

      
    図3. 本開発研究で提案されている超伝導ケーブルの構造の様子。

  次にこの縦磁界の下で、どうやって縦磁界効果を実現するかです。単に縦磁界を加えた
 だけでは、多少、電流容量は増えるでしょうが、究極の状態ではありません。すべての位
 置で電流と磁界が平行となる究極の状態、すなわちフォース・フリー状態を達成し、流せ
 る電流値を最大にする必要があります。しかし、それにはよいお手本があります。ちょう
 ど、内側導体と同じ形状の薄肉超伝導円筒を考え、縦磁界を加えた状態で電流を流したと
 します。この場合、超伝導円筒内では内部で電流と磁界が平行なフォース・フリー状態と
 なることが知られています。この電流の流れ方は電磁気学を学んだ学部学生でも簡単に計
 算できますが、この電流の流れ方を模擬するように超伝導線を配線すれば、フォース・フ
 リー状態を実現する内側導体が完成します。

  以上の、ちょっとしたアイデアで高性能超伝導電力ケーブルが実現できるのです。なお、
 従来の超伝導交流ケーブルでは、交流損失を減らすために極力、縦磁界を作らないように
 設計されています。そうした常識のために強い縦磁界を加えるということが盲点になって
 いたのでしょう。

  この超伝導電力ケーブルの特長は、電流容量を大きくするほど効率が上がるということ
 です。通常、電流容量を増やそうとして使用する超伝導線の量を2倍にしても、電流容量
 は2倍に達しません。これは、横磁界が増えて、図2に見られるように臨界電流密度が減
 少するからです。一方、縦磁界が増えると逆に臨界電流密度が増大しますが、これが高効
 率化に役立っています。高温超伝導体で金属系超伝導体のNb3Snテープ程度の特性が得られ
 るとした場合の電流容量の違いを図4に示します。

   
   図4. 従来方式と新方式の電流容量の比較。nはケーブル内の超伝導層の数で、
   図3はn=3の場合を示す。

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