超伝導体の特長は電気抵抗がなくなることにあり、冷却というペナルティーはあるもの
の、エネルギーを消費しないということにあります。それを最もよく具体化するものが直
流機器であり、交流損失を伴わず、また、構造が簡単になるため製造コストの面からも有
利です。したがって、こうした直流方式での利用が理に適っています。
しかも、社会の要請としては直流送電のニーズが非常に高いのです。家庭でもインバー
ターを利用する冷蔵庫やクーラーでは送られてきた交流電力を一旦、直流に変える必要が
ありますし、製鉄工場など、圧延をする場合なども同様な理由で直流電力を必要としてい
ます。企業における電力の中で直流の需要は90%を占めます。
こうした直流送電には超伝導現象の利用が適していることを上に述べました。しかし、
実はそれだけでは超伝導現象を究極まで利用したことにはなりません。さらにもう一つ、
すばらしいことがあるのです。そのことを理解する上で必要なこと、超伝導体が電気抵抗
なしに直流電流を流すことができる理由および、流せる電流の最大値がどのようなメカニ
ズムで決まっているかを説明しておきましょう。
超伝導体には通常、磁束が量子化した状態で侵入しており、これを量子化磁束と言いま
す。超伝導体には電流を流したときに量子化磁束に電流密度に比例した力(ローレンツ力)
が働きます。この力で量子化磁束が動きますと、運動速度に比例した電界が発生し、した
がって電気抵抗が生じてしまうのです。実用超伝導材料では内部に常伝導析出物や結晶界
面などのピンと呼ばれる不均一さを散りばめており、これらが量子化磁束の動きを止めて
しまいます。こうした作用をピンニングと言います。このため、電気抵抗の発生がないの
です。電気抵抗なしに流せる最大電流密度を臨界電流密度といいます。したがって、優れ
た超伝導材料とはピンニング作用が強い材料で、この方針の下、研究開発が進められてき
ました。
それではローレンツ力を0にすることはできないのでしょうか。そうすると、超伝導体
の臨界電流密度は大幅に増えるはずです。通常は、ローレンツ力を0にするには流す電流
を0にしなければなりませんが、それでは意味がありません。しかし、唯一、超伝導体で
は電流を流してもローレンツ力が働かないようにすることができます。それを利用するこ
とが究極の超伝導の利用法と言えるでしょう。
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