Y-123 単結晶超伝導体のピーク効果 山浦俊介(95232089) / 松下研究室 1. はじめに Bi-2212 単結晶超伝導体の場合に低温・低磁界領域で観測される臨界電流密度Jc の鋭いピー ク効果は磁束線格子の三次元から二次元へのクロスオーバーに起因するものであると考えられている。 一方でY-123 単結晶超伝導体では高温・高磁界領域でブロードなピークが観測されるが、特に双晶面を 含まない単結晶試料では2 つのピークが観測されている。このY-123 超伝導体のピーク効果のメカニズ ムについては従来から議論されており、その一つとして超伝導体内の酸素欠損のような弱い超伝導相に よる磁界誘起型のピンニングが挙げられている。しかしこれまでに双晶面をもたないY-123 単結晶超伝 導体における低磁界側のピーク効果はそのような磁界誘起型のピンニングでは説明できないことが明ら かになった。本研究では高磁界側を含めた2 つのピークについて測定を行い、それらのピーク効果の原 因について議論する。 2. 実験 試料は引き上げ法を用いて製作したY-123 単結晶超伝導体で、得られた結晶を1 軸圧力下で熱 処理を行うことにより双晶面を取り除いた。これを長さ1.2 mm 幅1.2 mm 厚さ約0.7 mm 程度に切り出 した。c 軸は広い面に垂直に配向し、臨界温度Tc は93.5 K であった。測定にはCampbell 法とSQUID 磁 力計を用いた。Campbell 法において直流磁界および35.0 Hz の微小交流磁界(振幅b0 ) をc 軸方向に印加 したが、反磁界係数の影響を軽減するためにこのような試料を2 つc 軸方向に積み重ねて測定を行った。 交流磁界に対する応答をピックアップ・コイルを用いて測定した。測定された交流磁束の振幅 とb0 の 関係から交流磁界の侵入深さ0 を求め、このb0 - 0 曲線の傾きから臨界電流密度が、またその結果をさ らに解析することにより磁束線に関する変位- 復元力特性が得られる。 3. 結果及び検討 図1 にCampbell 法によって得られた臨界電流密度の磁界依存性を示す。図1 において 7579 K の温度において臨界電流密度にp1 とp2 で示される2 つのピークが見られる。高温になるにつ れ低磁界側のピーク磁界は低磁界側に、高磁界側のピーク磁界は高磁界側にシフトしており、低磁界側 のピークは84 K 以上で消失する。高磁界側のピークは80 K 以上の高温では不安定となり測定すること ができなかった。また、図2、図3 に75 K における相互作用距離di とLabusch パラメータffL を示す。図 中のドットは実験結果を表し、実線はピーク効果がなく、点欠陥がピンとして働くと仮定した場合の理 論結果di/B1=2 、ffL /Bfl+1=2 を表す。ただしfl はピン力密度の磁界依存性を表すパラメータである。図 2 でdi は両方のピーク磁界近傍ではピークをもって大きくなっている。一方、図3 でffL も2 つのピーク磁 界近傍で大きくなっている。これは、高磁界側のピーク効果の原因がBi-2212 と同様に磁束線格子の状 態が変化し、かつピンニングが強くなっていることであることを示唆している。よって、ピーク効果の 原因としてffL とdi の増加が同時に説明できるdisorder transition が考えられる。 図1 Y-123 単結晶超伝導体 図2 75 K における相互作用 図3 75 K におけるLabusch における臨界電流密度 距離の磁界依存性 パラメータの磁界依存性 の磁界依存性 A6.2