Bi-2223 酸化物超伝導体を用いた500 A 級交流トランス 森實康行(94232084)/ 松下研究室 1. はじめに 酸化物超伝導体の交流機器への応用が進み始めているため、交流電流を直接通電した際の 損失の測定などの基礎特性の評価が求められている。しかし溶融法により作製されたY 系酸化物超伝導 体などでは臨界電流が液体窒素中でも数百A 以上にもなり、大型の交流電源を持つ機関でしか通電損失 測定が行えない。そこで本研究では、研究室レベルで液体窒素中における酸化物超伝導体の交流通電損 失測定を行うことを目的として、Bi-2223 酸化物超伝導多芯テープ線を用いて500 A を流すことのでき る小型電流増幅トランスを試作した。 2. 設計製作 トランスの一次側には0.2 mmOE の銅線を300 回巻いた。二次側にはBi-2223 多芯テープ線材 を用い2 回巻きとした。77.3 K, 0 T におけるこのテープ線材の直流の臨界電流は45 A であったので二次 側の最大出力電流を500 A 級とするために、この線材10 本を並列に接続した。この線材の曲げ歪み特性 を考慮して二次側のボビンの直径は64 mm とした。コイル間の結合を良くするために鉄心を利用した。 巻き線が動かないようスタイキャストを用いて含浸し、さらに布入りベークで支持してあり、線材の冷 却チャンネルをいくつか設けた。全体の大きさは90 110 150 mm3 程度で重量は3.4 kg であった。 p _______ 3. 性能評価 77.3 K において二次側を銅板で短絡した際の結合係数k = M= L1 L2 を測定したところ、 その値は0.78 で1 を下回っており、二次側巻き線を完全に一次側巻き線に密着して巻けなかったために 磁束が漏れたことが原因と思われる。同じ条件下での、一次側電流と二次側電流(それぞれピーク値) の 関係を図1 に示す。測定は35-200 Hz の周波数範囲で行った。二次側の最大のピーク電流は35 Hz のとき に841 A となった。この時の一次側の入力電流のピーク値は9.48 A であった。出力電流は超伝導テープ の臨界電流の約2 倍ほど高い。これは、電流電圧特性をE / J n と表したときのn の値が低いため、電 流が増加しても等価的抵抗の増加が比較的ゆっくりしていることと、比熱が大きいことにより、超伝導 テープ線の温度上昇が著く少ないため、超伝導テープの臨界電流より2 倍程大きい出力電流が安定に流 れたと考えられる。周波数により変圧比は異なるが約95 倍となった。この比が巻き数比150 よりも小さ いのは、前述した磁束の漏れや銅線の抵抗等による損失が原因と思われる。Rogowski コイルの出力電 圧波形をFFT アナライザーで観測したところ、基本周波数以外の周波数成分は観測されず、この周波数 範囲では波形に歪みは認められなかった。 4. 交流損失 作製した超伝導トランスを用いて、QMG 法Y-123 バルク超伝導体の交流損失を測定した。 試料のサイズは30 4:0 0:5 mm3 であり、77.3 K、1 T でのSQUID による磁化ヒステリシスの幅から 計算された臨界電流密度はJc = 4:0 107 A=m2 である。臨界電流密度の磁界依存性はIrie-Yamafuji モデ ル1) よりJc=ffBfl1 と表され、SQUID による磁化ヒステリシスの幅からff = 4:0 107 、fl = 0:5 が求ま る。交流エネルギー損失密度と交流電流の関係を図3 に示す。なお、実線はIrie-Yamafuji モデルより求 められた理論値である。図3 より臨界電流の近辺まで一致していると言える。 図1. 一次電流と二次電流の関係。 図2. 交流エネルギー損失密度と交流電流の関係。 【参考文献】 1) F. Irie and K. Yamafuji: J. Phys. Soc. Jpn. 23 (1967) 255. A6.4