Bi-2212 超伝導単結晶試料の不可逆磁界と磁化緩和率 森久俊(95232088) / 松下研究室 1. はじめに 超伝導体を評価する特性に臨界電流密度以外に不可逆磁界や磁化緩和率などがある。これ らの特性はピンポテンシャルの値が与えられれば磁束クリープ理論で説明でき、実際に今までにこれら の特性はそれぞれ単独で説明されてきた。しかしながら、一つの試料について同じピンポテンシャルか らこれらの特性を統合的に議論したことはない。それで本研究ではそれをBi-2212 超伝導体で確かめる ための不可逆磁界と磁化緩和率を測定し、かつ理論的に予想し、それらを比較検討する。 2. 実験 試料には、FZ 法(floating zone) により作成したBi-2212 超伝導単結晶試料を用い、酸素をオーバー ドープしており、臨界温度Tc は78.3K である。試料のサイズは、縦1.10mm、横0.90mm、厚さ0.20mm で あり、c 軸は平らな面に対して垂直に配向している。磁化履歴と磁化緩和率の測定にはSQUID を用いc 軸に方向に磁界を加えた。磁化の対数緩和率は、200 秒から600 秒の緩和が顕著に起こっている領域で 評価し、これから見かけのピンポテンシャルU0 を求めた。磁化履歴から臨界電流密度Jc を求め、また 不可逆磁界はJc が106 A=m2 に減少する磁界で決定した。 3. 結果及び検討 磁束クリープ特性を決定する重要なパラメータはピンポテンシャルU0 であるが、これ は磁束クリープ理論1) によると磁束クリープがないときの仮想的な臨界電流密度Jc0 から求まる。この 任意の磁界及び温度におけるJc0 (B; T ) は磁束クリープの影響が小さい低温、低磁界領域の臨界電流密 度の測定値とスケーリング則を用いて近似的に評価される。こうして任意の磁界及び温度におけるピン ポテンシャルU0 (B; T ) が求まる。U0 からU0 を求めるためにWelch の理論式2) U0 = 1:65(kB T U02)1=3 を用いた。ここでは磁束線の2 次元状態に注目し、図1 にこうして得られた見かけのピンポテンシャル の予想値と磁化緩和率から求めた実験値と比較する。この領域において両者は定量的に異なるものの定 性的には一致していることがわかる。さらにこのピンポテンシャルと磁束クリープ理論を用いて不可逆 磁界を求めることができる。得られた不可逆磁界と、実験から求めた値を図2 に示す。磁束線の2 次元 領域においてはほぼ一致していることがわかる。以上から磁束線の2 次元領域における不可逆特性は大 まかに磁束クリープ理論で説明できると結論される。 図1. 見かけのピンポテンシャルの実験 図2. 不可逆磁界の実験値と理論値との 値と理論値との比較 比較 【参考文献】 1) T. Matsushita, T. Fujiyoshi, K. Toko, K. Yamafuji: Appl. Phys. Lett. 56 (1990) 2039. 2) D. O. Welch: IEEE Trans. Magn. 27 (1991) 1133. A6.1