YBaCuO 超伝導薄膜の低電界輸送特性の評価 児玉武士(95232035) / 松下研究室 1. はじめに 高温超伝導体の応用には、直流定常状態(永久電流モード) から交流に至るまで様々な場合 が考えられ、それに対応する電界の領域は大きく異なる。一方、こうした電界は流れる電流と密接な関 係があり、高温超伝導体を用いた機器の特性は、その材料の電界(E)- 電流密度(J ) 特性に左右される。 しかしながら、高温超伝導体の広い電界領域にわたったE-J 特性の評価はまだ十分に明らかにされて おらず、その電界発生の機構やそれに対するピンの分布の影響について知見が得られていない。本研 究では、均一性の優れた高品質なYBaCuO 超伝導体薄膜について、SQIUD を用いて磁化の緩和を測定 し、超低電界領域のE-J 特性の評価を行った。さらにE-J 特性のスケーリングの解析を行い、重要なパ ラメーターである臨界指数について調べた。また、ホールセンサによる磁化測定から得られたE-J 特性 と比較し、結果について議論する。 2. 実験 試料は、九州大学において製作されたものでエキシマーレーザーアブレーション法によりSrTiO 基板上に作製したリング状のc 軸配向YBaCuO 超伝導体薄膜を用いた。膜厚はd = 2:0 107 m であ り、リングの直径が2r = 3:0 103 m、幅がw = 4:0 104 m である。ここでは、いろんな温度におい てリングに垂直に加えた外部磁界を変化させて試料に誘起した電流の磁気モーメントをSQUID 磁力計 (MPMS) によって測定した。測定された磁気モーメントから電流密度J が、またその時間変化から電界 E が求まる。このようにして、より感度の小さい電界領域におけるE-J 特性を求めた。 3. 結果及び検討 外部磁界を一旦、30 mT まで増加した後、2:0 mT まで減少させた後の磁化測定から、 上記の計算手法に基づき得られたE-J 特性を図1 に示す。この結果より、SQUID 磁力計による測定は ホールセンサにより測定される電界領域よりも低い領域の定量的測定が可能であることが分かる。図2 は得られたE-J 曲線のスケーリングの結果で、転移温度Tg = 83:7 K、動的臨界指数z = 60、静的臨界指 数 = 0:8 を得た。また、z と は磁界の増加ともに増加するという臨界指数の磁界依存性が見られた。 このことは、グラス- 液体転移モデルにおけるz と は磁界にはよらず、一定であることを否定するも のであり、グラス- 液体転移の機構が純粋な磁束線の特性に基づく相転移ではない可能性がある。 また、SQUID とホールセンサにより測定されたE-J 曲線を比較すると、電流密度において約一桁も 異なるずれが生じていることが分かった。各測定のE-J 特性を系統的に取り扱うために、さらに各測定 の解析式に立ち返り比較し、その妥当性を検討する。 図1 外部磁界2:0 mT 中における 図2 外部磁界2:0 mT 中における E-J 特性 E-J 特性のスケーリング A6.3