Y-123 超伝導体のピーク効果と磁束ピンニング機構 右田 稔 (97232074) / 松下研究室 1. はじめに 酸化物超伝導体において臨界電流密度 Jcがある温度 . 磁界領域でピー* *クを持つということ が報告されており、溶融法により作製された Y-123 バルク超伝導体も中磁界でブロー* *ドなピークを持つ ことが知られている。現在 Y-123 超伝導体のピーク効果は酸素欠損などの低 Tc相によ* *り起こることが明 らかにされてきたが、そのメカニズムについては、磁界誘起型の引力的なピンニングと* *、近接効果の下 での運動エネルギー相互作用による反発的なピンニングの立場からさまざまな議論がな* *されている。今 回は溶融法 Y-123 で観測されるピーク効果の機構を明らかにするために製作条件の異* *なる 4 つの試料に ついて、磁化測定から臨界電流密度を評価した。また測定の結果は磁束クリープ・フロ* *ーモデルによる 理論結果と比較検討する。 2. 実 験 試 料 は 溶 融 法 Y-123 超 伝 導 体 で あ り、 試 料 の 製 作 条 件 * *は 211 相 も 白 金 も 添 加 し な い も の (試 料 00)、 211 相のみ 25 wt% 添加したもの (試料 01)、白金のみ添加したもの (試料 10)* *、および 211 相を 25 wt% と白金の両方を添加したもの (試料 11) である。 211 相は磁界誘起型と同じ凝縮エネ* *ルギー相互作用をす る の で、 低 Tc相 の ピ ン ニ ン グ を 調 べ る 目 的 で 添 加 す る も の で * *あ り、 白 金 添 加 は 211 相 を 微 細 分 散 さ せ て、 211 相 に よ る ピ ン ニ ン グ を 強 く す る た め で あ る。 サ イ ズ * *は 4 つ と も 3.14 x 2.09 x 0.82 mm3程 度 で あ り、 c 軸 は 試 料 の 長 手 方 向 に 配 向 し て い る。 臨 界 温 度 Tcは * *す べ て 89 K~91 K 程 度 で あっ た。 測 定 は SQUID 磁力計を用いて c 軸方向の磁化に対して行った。 3. 結果及び検討 図 1 は 77.3 K で得られた磁化のヒステリシスから評価した臨界電* *流密度 Jcの磁界依 存性を示す。一般にピーク効果は 40 K 程度から現れ、 211 相により試料のピンニン* *グが強くなるに従っ て小さくなっている。また、試料 00、 01 を比較すると、 211 相の添加により、低、* *高磁界では臨界電流 密度は大きくなるが、中磁界では小さくなっていることがわかる。したがって低 Tc相* *のピンニング機構 は 運 動 エ ネ ル ギー 相 互 作 用 に よ る 反 発 的 な ピ ン ニ ン グ で あ * *る と 考 え ら れ、 中 磁 界 領 域 で の Jcの 低 下 は これと、 211 相による引力的なピンニングの間の干渉によるものと考えられる。なぜ* *なら、低 Tc相のピ ンニングが同様に引力的であるなら、中磁界領域でも臨界電流密度が上がらなければな* *らないからであ る。運動エネルギー相互作用の要素的ピン力は磁界の増加とともに単調に減少すること* *から、ピーク効 果は disorder 転移のような磁束線系の相転移に起因していると考えられる。 また、図 1 の実線は試料 00、 01 において 211 相によるピンニングを仮定したと* *きの磁束クリープ・フ ローモデルによる理論結果である。これより低、高磁界領域ではほぼ実験値と一致して* *いることがわか る。一方、試料 10、 11 については、さらにピンニングが強くなっているので、臨界* *電流密度は上昇する が ピー ク 効 果 は 観 測 さ れ な かっ た。 図 2 に 試 料 00、 01 の 不 可 逆 * *磁 界 Biの 実 験 結 果 と 211 相 に よ る ピ ン ニングを仮定した磁束クリープ・フローモデルによる理論結果との比較を示す。これよ* *り、試料 00、 01 ともほぼ不可逆磁界が理論結果と一致していることがわかる。図 1、 2 の理論結果と* *の比較より、低、 高磁界領域においては 211 相が主にピンニングに関与しており、不可逆磁界は 211 相* *によって決められ ると考えられる。 図 1 77.3 K における臨界電流密度の 図 2 試料 00、 01 にお* *ける不可逆磁界の 磁界依存性 温度依存性 A12-4