IX. 各種電磁現象

(1) 反磁性の効果の理論的導入

 G-Lパラメーターκが小さい第二種超伝導体では反磁性の影響が大きく、Helmholtzの自由エネルギーの磁束密度Bに関する微分として与えられる熱力学的磁界H がB0から大きく違い、磁束に働く駆動力がLorentz力から違ってくる。こうした場合に駆動力とピン力の釣り合いを考慮した臨界状態モデルを拡張し、とくに減磁過程で外部磁界を下部臨界磁界Hc1以下にしたときの磁化過程、すなわち、表面から巨視的な深さまでの領域の磁束が排出され続ける過程を「過冷」過程として説明した[68]。

(2) 表面ピンニング

 表面近くを流れる電流によって磁気的な不可逆性が生じる、いわゆる表面不可逆性の原因として表面シース、表面バリア、表面ピンニングの3つの機構が提案されている。ここでは異なる程度に圧延した一連のNb-Ta平板試料を用いてCampbell法によって表面付近および内部の臨界電流密度を測定した。その結果、圧延してピンを導入することによりそれぞれの領域の臨界電流密度は増加し、ピンニングが強い極限では両者の差が小さくなり、ともにバルクな超伝導体の飽和特性に漸近する。この結果は表面シースおよび表面バリアで説明できず、表面不可逆性は本質的な表面現象(表面が存在するために起きる現象)ではなく、表面付近に欠陥が集中するという2次的な表面効果である表面ピンニングによることを示したものである(磁束線の可逆運動の項参照)。

 また、高磁界になると表面ピンニングは消失するが、これはピンニングが強いのはほんの表面部分に限られ、高磁界では広がったピンニング相関距離の範囲内で平均化されたピン力が目立たなくなるからであると説明される。

(3) 磁界中冷却過程の直流磁化率

 臨界状態モデルを用いて磁界中冷却過程の直流磁化を計算し、その磁化率を試料のサイズ、外部磁界の強さとピンニングの強さの関数として求めた。その結果、試料が大きいほど、外部磁界が弱いほど、そしてピンニングが強いほど、十分低温における磁化率が負の小さな値になることを示した。これは、温度が臨界温度Tcから下がるにつれて反磁性が強まって磁束を排除しようとするのであるが、その動きを止めるピンニングも強くなって、結果的に超伝導体内に磁束が取り残されてしまうためである。簡単なモデルであるが、図33のように実験結果との定性的一致が得られた[69]。したがって、こうした方法で測定した、低温における一定の磁化率を超伝導Meissner分率として、超伝導領域の割合の評価に用いることが危険であることを明らかにした。


図33. 磁界中冷却過程で測定したLa系超伝導焼結体の低温における直流磁化率の磁界依存性。破線は臨界状態モデルを用いた理論結果。

(4) 磁束格子の弾性定数の非局所性理論に対する反論

 磁束線格子の弾性定数のうち、一軸圧縮と曲げに対するC11およびC44について非局所理論を用いて計算し、空間変化の波数が大きくなるとこれらの弾性定数が小さくなるという理論結果が提出されている。しかしながら、これらの弾性定数がLorentz力と密接に関わりあうことを考慮するならば、弾性定数が分散関係をもつということが奇異であることが分かる。実際にC11については磁束の量子化条件を考慮すれば局所的なB20が得られ、C44についても磁束の最大点と超伝導オーダーパラメーターの0点との一致を保てば同様に局所的なB20が得られることを示した。逆に、磁束線の間隔の変化による磁束密度のピーク値を強制的に一定として磁束の量子化条件を無視すればC11の非局所的な結果が得られ、また、非局所的なC44を導くにはdivBが0でなくなることを示した。こうした議論にLondon理論が用いられることが多いが、弾性エネルギーは歪の2次のオーダーの微小量であり、London理論にそこまでの精度を求めること自体が無理である[70-72]。

(5) Bi系高温超伝導体の熱力学的臨界磁界の特異性

 2次元異方性が強いBi系高温超伝導体は特異な超伝導特性を示すが、その一端が円柱状照射欠陥によるピンニング特性から評価した熱力学的臨界磁界の温度依存性である。図34にその温度依存性を示すが、低温では温度の増加とともに線形に減少し、あたかもTcより低いある温度で超伝導性を消失するかのような振る舞いをする[50]。高温では温度の増加とともに指数関数的に減少している。低温で大きな熱力学的臨界磁界となるのは絶縁的なブロック層の超伝導性が向上したためと考えられ、こうした特性が低温での強いピンニングを支えているものであろう。この結果は、実際のTcを与えるCuO2面の超伝導以外にブロック層の超伝導が別個に存在するかのような錯覚を与え、今後、Bi系超伝導体の物性を解明する上で重要な鍵となろう。(磁束ピンニング機構の項参照)


図34. Bi-2212超伝導体の熱力学的臨界磁界の温度依存性。

(6) MgB2バルク超伝導体のパーコレーション特性と界面のピン力の評価

 山本博士(東京大学)との共同研究で、MgB2バルク超伝導体の臨界電流密度が低い原因として材料内の空隙と結晶粒界における酸化絶縁層が考えられることから、これらの影響を定量的に検討する目的でパーコレーション・モデルを構築した。そして、同一原料粉から出発し、異なる手法で製作した充填率の異なる試料について、Rowellの流儀に倣い、室温からTc直上までの抵抗率の変化量から電気的結合度を求めた。この結果をパーコレーション・モデルに当てはめて解析し、粒内の抵抗率と酸化絶縁層で覆われている結晶粒子の割合を見積もった。それによると、通常のin-situ法で製作する線材の場合、充填率が50%程度であることから、電気的結合度は10%程度しかなく、このように電流パスが少ないことから臨界電流密度が低いことが説明された[73]。図35は充填率を電気的結合度の関係を示す。


図35. 一般的製法によるMgB2試料の電気的結合度と充填率との関係。実線はパーコレーション・モデルによる予想。

 この解析手法の優れた点は、明らかにされた電気的結合度を用いてTc直上における粒内の残留抵抗率を正しく見積もれる点であり、これを基に物性値を評価できる。ここでは、その結果から電子の平均自由行程を見積もり、これと実測したBc2から不純物パラメーターを見積もった。これによれば、通常のCを添加していないMgB2はややcleanな状態であり、電子散乱による結晶界面の要素的ピン力はC添加などによりもっとdirtyにすることによりかなり向上することが見込まれ、実際のSiCやB4Cの添加による特性向上を説明している。なお、結晶界面によるピンニング特性そのものは4.2 Kにおいて同じ温度のNb3Snの特性を上回る優れたものであることが明らかとなっており、パーコレーション・モデルによって電気伝導度が100%になったときにきわめて優れた特性になるという予想と一致する[74]。

 また、同じパーコレーション・モデルを用いて不可逆磁界が充填率によって変わることも明らかにした[75]。