VIII. 超伝導基礎

 ここでは、磁束ピンニングに関連した研究とは異なり、超伝導基礎特性に関する研究についての業績を集めてみた。したがって、ひとつのグループなになるような研究ではなく、おのおのが独立である。

(1) 磁束線の常伝導核の有効径

 G-L方程式を摂動法を用いて解いて量子化磁束の中心部分の解を求めるにあたって、中心から遠方の解との接続が必要となる。従来は直感的に中心からコヒーレンス長ξの位置において厳密に解けるLondon方程式の解と接続していたが、その境界条件から得られる量子化磁束の常伝導核の半径がξになるという結果から、こうした求め方がコンシステントであると考えられていた。しかしながら、数値的に解いてみると、そうした予想とは大きく外れ、G-Lパラメーターκが十分大きい場合には半径はほぼ1.8ξとなることが得られた[65]。このようになったのは、本来、中心からξ程度の位置では超伝導性が十分高くないことからLondon方程式が成立する範囲になく、したがって、この位置でLondon方程式の解と接続することが正しくないからである。ξ程度の位置でLondon方程式とコンシステントに接続されたのは偶然の出来事に過ぎない。

 この結果、量子化磁束の常伝導核の半径は従来の予想よりも大きく、凝縮エネルギー相互作用による欠陥の要素的ピン力は少し大きな値となることが示された。

(2) 運動エネルギーを用いた近似的なBc2の計算

 線形化したG-L方程式を解いて、その磁界の固有値からBc2を求めることが一般となっているが、これは相転移を熱力学的に理解するには十分でない。そこで、混合状態における具体的なオーダーパラメーターの解を用いて運動エネルギーを表すと、負である凝縮エネルギーの利得を正の運動エネルギーで食いつぶす磁界がBc2を与えることとなり、現実的な理解が得られるようになった。さらにオーダーパラメーターの近似解を用いた結果、正しいBc2の値の98%の近似解が得られた[46]。

 この手法は、Bc2が異なる二つの薄い超伝導層が合い接する場合の近接効果などの計算に有効である[66]。

(3) 第一種超伝導体の臨界磁界のサイズ依存性

 従来、この問題を取り扱う場合の自由エネルギーには磁化のエネルギーが用いられていた。しかしながら、正式にG-L理論で取り扱われているのは磁界のエネルギーB2/2μ0であり、それによって、小さな超伝導体の場合に自由エネルギーが多少変わる。このため、第一種超伝導体の臨界磁界のサイズ依存性は従来の予想から変わり、図32に示すように実験結果との一致はよくなった[67]。


図32. (T /Tc)2=0.8におけるSn薄膜の平行方向の臨界磁界の膜厚依存性。