VI. 磁束ピンニング機構
(1) 凝縮エネルギー相互作用における近接効果の影響 |
(2) 運動エネルギー相互作用 |
RE-123バルク超伝導体は中間磁界領域で臨界電流密度が緩やかなピークをもつが、この要因となるピンが酸素欠損ならびに低Tc置換相であることが知られている。これに211相粒子を添加すると、低磁界および高磁界での臨界電流密度は増加するものの、中磁界の臨界電流密度は低下し、ピーク効果が消滅する[48,49](図21参照)。酸素欠損や低Tc置換相のピンニング機構として磁界誘起型ピンニングが提案されているが、そうであれば、これらと211相粒子のピンニングはいずれも凝縮エネルギー相互作用であることから、中磁界での臨界電流密度の低下は説明できない。むしろ、これらのピンニング機構は運動エネルギー相互作用であると考えられる。これは、その部位はBc2が小さいことからコヒーレンス長が短く、かつ、サイズがnmスケールで近接効果が容易に起こると考えられるからである。したがって、これらの、正のピンニング・エネルギーをもち、反発的なピンと211相粒子の負のピンニング・エネルギーをもち引力的なピンとの間で干渉が生じ、これによってピーク効果が消滅したものと考えられる[37,49]。
図21. Nd-123超伝導バルクにNd-422相を添加したときの77.3 Kでの臨界電流密度の変化(Mochida et al.[48])。
(3) 円柱状欠陥によるピンニング |
図22. いろいろな異方性パラメーターをもつ超伝導体について理論で予想される欠陥サイズの関数形で規格化した臨界電流密度。r0を円柱状欠陥の半径、ξをコヒーレンス長として、r0>ξの場合はR 3= r0(r0+ξ)2、r0<ξの場合はR 3=ξ(r0+ξ)2
また、導入した円柱状欠陥による臨界電流密度をこれらの理論を用いて解析し、目的とする超伝導材料の凝縮エネルギー密度を評価する手法を開発した(磁束クリープ・フロー・モデルおよび各種電磁現象の項参照)。
(4) RE-123系におけるピンニング特性 |
さらに、一般的に臨界電流密度のピーク値が高いほど、不可逆磁界が低いということが観測されているが、この結果は通常のピンニングの考えでは説明がつかない。このピーク効果のピンニング機構そのものは近接効果がある場合の運動エネルギー相互作用であると考えられることから、近接効果によってBc2が減少するために不可逆磁界が減少したものと予想され、実際に観測によってBc2と不可逆磁界との関連が示された[51]。
(5) サイズ効果 |
図23. Sm-123超伝導粉体の臨界電流密度。
異方性が大きいBi-2212超伝導体のc軸方向の厚さが異なる単結晶のc軸方向に磁界を加えた場合の臨界電流密度を調べたところ、図24のように、厚さが0.5 μmと1.0μmの間のある値を境以下でピーク効果が現れなくなっている[30]。このピーク効果は、Sm-123粉体の場合と同様に磁束線の秩序-無秩序転移によるものと解釈されているが、その原因が磁束線の次元クロスオーバーにあることが異なる。さらにピーク効果が生じなくなる臨界サイズは異方性が小さいSm-123の場合とは異なってピンニング相関距離ではなく、それよりもずっと短い面間の結合長であると考えられている。
図24. 厚さが異なるBi-2212単結晶試料のc軸(厚さ)方向の磁界下での臨界電流密度。
RE-123コート線材や薄膜においても超伝導層の厚さを変えると、いろいろなピンニング特性が大きく変わる。ただ、低磁界における臨界電流密度が厚くなるにしたがって低下していくのは、2次元ピンニング機構によるものではなく、超伝導層の組織の劣化に伴うものであることが明らかにされている。このような磁界範囲ではピンニング相関距離は厚みよりも短く、3次元ピンニングとなっているからである。図25はYBCOコート線材の不可逆磁界の厚さ依存性が電界の強さによって変わることを示したものであるが、磁束クリープ・フロー・モデルにより大まかに説明できる[32]。このように複雑に厚さによって変化するのはg2の変化によるものである(磁束線系の相転移の項参照)。
図25. (a)10-4 V/mおよび(b)10-8 V/mのレベルの電界におけるYBCOコート線材の不可逆磁界。
(6) 飽和現象と非飽和現象 |
とくに雪崩フロー・モデルを提案し、Campbell法による実験結果を説明するとともにピンニングを強くすることで、飽和特性から非飽和特性へと改善できることを明らかにした[55]。このモデルでは、中途半端にピンニングが強い場合、ピンの周辺でできている磁束格子欠陥付近で塑性変形が生じると、それが不安定的に広がって十分な臨界状態に達する前に雪崩的に磁束フローが発生し、飽和特性になると説明される。もしピンニングが十分強くなると、不安定現象が空間的に広がるのが抑えられ、臨界状態に達して非飽和特性となる。図26は雪崩フロー・モデルで予想される飽和現象の際のピン力と磁束の変位の関係で、Campbell法による実験結果と一致する。
図26. 飽和現象の際のピン力と磁束の変位の関係に対する雪崩フロー・モデルの予想。ピンニングが強くなると矢印のように変化する。
(7) ピンニング相関距離 |