IV. 磁束線系の相転移

(1) 3つのエネルギーによる3種の相転移の予言

 磁束系の弾性エネルギーUE、熱エネルギーUTおよびピンニング・エネルギーUPの3つのエネルギーによる3種の相転移、すなわち融解転移(UEUT)、グラス-液体転移(UTUP)および磁束線系の秩序-無秩序転移(UPUE)を予言した[25]。とくに、臨界点より低温側においてグラス-液体転移磁界以下で融解転移が起こりうることを予言し、岸尾らの実験結果を説明した。


図13. 岸尾らによるアンダードープ状Bi-2212単結晶の不可逆曲線(グラス-液体転移曲線)と融解転移曲線[26]。

(2)グラス-液体転移(不可逆曲線)

 グラス-液体転移が磁束の熱運動によるdepinning転移であるという考えに基づき、磁束クリープの立場からこの転移曲線を理論的に説明した(磁束クリープ・フロー・モデルの項参照)。このモデルによるE-J理論曲線のスケーリングから得られる動的および静的臨界指数が超伝導体の異方性に固有の値でなく、ピンニングによって変わることを明らかにした。なお、グラス-液体転移磁界と不可逆磁界とは同じ現象を取り扱っているが、定義の違いによる違いが存在する。

 この理論モデルを用い、転移磁界に関する以下の依存性を総合的に説明した。

  1.  温度依存性(不可逆曲線)[27]
  2.   ピンニングの強さに対する依存性[28]
  3.   超伝導体の異方性パラメーターに対する依存性(面内磁界は[28], c軸方向磁界は[29])
  4.   超伝導体サイズ依存性(Bi-2212薄膜[30], Sm-123粉体[31], Y-123コート線材[32])
  5.   電界依存性[33]
 例えば、ピンニングの強さをAで表すと、上部臨界磁界より十分低い範囲で不可逆磁界はA1/3に比例する[28]。図14は異方性パラメーターが異なる各種超伝導体の面内磁界における不可逆曲線の違いを示す[28]。また図15はSm-123粉体の不可逆磁界と平均サイズの関係を示す[31]。とくに、この中で超伝導体の異方性パラメーターに対する依存性を正しく評価するためには、磁束バンドルの横サイズを正しく見積もる必要があり、そのサイズは磁束クリープ下の臨界電流密度が最大になるという仮説を用いて決定している(エネルギー散逸極小の原理の応用の項参照)。電界の強さに対する依存性については磁束クリープ・フロー・モデルの項を参照されたい。


図14. 各種高温超伝導体のc軸に垂直な方向の不可逆曲線。(a)が実験結果、(b)が理論結果。


図15. Sm-123粉体超伝導体の不可逆磁界の平均サイズ依存性。

 これとは別に、この転移が2次であることを統計理論から証明した[34, 35]。

(3)秩序-無秩序転移

 高温超伝導体で観測されるピーク効果が秩序-無秩序転移であることが一般的に唱えられているが、これを支持する実験結果を示してきた。具体的には以下の事柄である。

・ Bi-2212単結晶のピーク効果において、Campbell法を用いた実験で臨界電流密度が異なる二つの安定状態があり(図16参照)、その状態間で不連続に変化することから、この転移が磁束線の次元クロスオーバーに伴う1次転移であることを実験的に証明した[36]。また、これに関連して、低温になると転移が消滅することを説明した。

・ Bi-2212[30]とSm-123[31]のピーク効果に関するサイズ効果を調べ、2次元ピンニング状態においてピーク効果が消滅することを明らかにした。これから、このピークが磁界誘起型のピンニング機構によるものではなく、磁束の秩序-無秩序転移によるものであることの間接的に支持している(磁束ピンニング機構の項参照)。また、転移曲線が臨界温度Tcに達することからも同様な議論が行われている[37]。


図16. Bi-2212超伝導体の臨界電流密度。