III. エネルギー散逸極小の原理の応用

(1) 臨界状態モデルの意義付け

 一般に超伝導体内の不可逆電磁現象を記述することで知られる臨界状態モデルがエネルギー散逸が極小となるという不可逆熱力学の基本法則から導かれることを明らかにした[22]。


図11. 臨界電流密度が小さく(ν倍)なったときの、外部磁界の変動による磁束の侵入。損失を小さくするために、できるだけ磁束の侵入を抑えるよう、臨界電流密度が最大値をとる。

(2) 縦磁界下におけるピンニング・エネルギーの分配

 一般に縦磁界下では、電流の流れ方に自由度が増え、Lorentz力とピン力の釣合いおよびforce-freeトルクとピンニングトルクの釣合いの二つの条件によって、電流の流れ方および磁束構造が決定する。これらは一般化臨界状態モデルとして記述されるが、このとき両者に共通なピンニング・エネルギーの分配がどのように決定されるかが重要なポイントである。ここでも、Lorentz力およびforce-freeモーメントによる磁束の併進ならびに回転運動が起こる場合のエネルギー散逸が極小となるようにピンニング・エネルギーの分配が行われるとした。損失は臨界電流密度に逆比例するため、これによって、通常では臨界電流密度が大きくなるトルクの釣合いに主としてピンニング・エネルギーが分配されることが示される[9]。したがって、ピンニングが有効であるにもかかわらず、力の釣合いにはピン力が現れず、縦磁界下ではforce-freeモデルが成立することを証明した(縦磁界効果の解明の項を参照)。

(3) 磁束クリープにおける磁束線バンドルの横サイズの決定

 集合的磁束クリープ理論によれば磁束クリープの際に集団で行動する磁束の横サイズは剪断定数C66に関与したピンニング相関距離で与えられる。しかしながら、C66は磁束クリープの影響を受けて完全な磁束格子の場合の値から大きく減少し、その値を前もって予測することは不可能である。このため、この値、最終的には磁束バンドル中の磁束線数g2がエネルギー散逸が最小となるよう、すなわち、磁束クリープ下の臨界電流密度が最大になるように決定するとした[23]。この原理に基づくg2の決定と不可逆磁界の様々な条件に対する依存性についての説明は磁束クリープ・フロー・モデルの項および磁束線系の相転移の項に記述するので、それらを参照のこと。


図12. Bi-2223超伝導体におけるg2ge2(C66が完全な磁束格子の場合の値をとるときのg2)との関係。直線は理論的予想を示す。

(4) 集合的ピンニングに対する定量的、定性的修正

 Larkin-Ovchinnikovによる集合的ピンニング理論によるピン力密度の予想は多くの場合、定量的かつ定性的に実験結果と異なっている。この原因は(3)にも記述したように、磁束格子の剪断定数C66が完全な磁束格子を仮定したときの値よりも大きく減少するからであると考えられることから、同じ手法を集合的ピンニング理論に適用した。その結果、要素的ピン力fpやピンの数密度Npなどのピンニング・パラメーターに対する依存性が定性的に改善され、また、定量的にも改善された[24]。