II. ピンニングの加算理論
(1) エルゴード性の証明 |
(2) ヒステリシス損失の起源 |
さらに、動的状態のピン力は最初、YamafujiとIrieによりピンニング損失から定義されていたが、この定義とピン力の時間平均とが一致することも証明している[16]。
図9. ピン・ポテンシャルを通過するときの磁束の速度。ピンに落ち込むときとピンから飛び出すときに不安定となり、大きな損失をもたらす。
(3) コヒーレント・ポテンシャル近似理論の提案 |
この理論では、ピンが弱い場合、ピン力密度が要素的ピン力の2乗に比例する統計和となり、ピンが強い場合、ピン力密度が要素的ピン力に比例する線形和となって、実験結果に一致することが示された。図10はピンが強い場合の実験との比較を示す。
図10. 常伝導析出物をピンにもつNb-Taのピン力密度とピンニング・パラメーターの関係[19]。fpと
また、この理論を用いて磁束線に平行な円柱状欠陥によるピンニング特性を求めた。一般に、欠陥のサイズが大きく、数密度が高いほど臨界電流が高くなるという結果が得られ、実験結果を説明している。また定量的な一致も得られた(磁束ピンニング機構の項参照)。
(4) 臨界状態理論 |
そこで、簡単のためにG-Lパラメーターκが大きい超伝導体について凝縮エネルギーを無視し、磁界のエネルギーとピンニングエネルギーのみを考慮した自由エネルギーを最小とする変分原理から、臨界状態モデルと同じ力の釣り合いの式を導いた。この場合、孤立系を取り扱う必要から、外部から電流を与えるような場合は取り扱えず、現実的でない。そのため、これを外部からエネルギーが加わった一般の場合に拡張し、Poyntingベクトルから、同じ型の力の釣り合いが保てることを示し、ついで、加算理論の助けを借りて、ピンニングが可逆な状態から不可逆な状態へ連続的に移ることを明らかにし、最終的に不可逆な臨界状態モデルを証明した。これによって、従来、現象論的モデルとして広く知られている臨界状態モデルが臨界状態理論へと格上げされた[20, 21]。
ここで特筆すべきことは、多体間のピンニング相互作用を取り上げ、モデルとしてではなく理論的にエネルギーのレベルで不可逆性を導いたことであり、直接、エネルギー散逸の機構を示したものではないが、少なくともエネルギー散逸がなければ熱力学第一法則に矛盾することを明らかにしたことである。この点は同様な磁性体の磁化の不可逆性、摩擦などの分野に共通するものであるが、その中で一歩、先を進んでいることを示したものといえよう[20, 21]。