X. 電磁気学

(1) 物質体系の完成

 (1a) 静電気現象と静磁気現象の対応の深化
 Meissner状態にある超伝導体内では磁束密度Bは0となり、界の性質の違いによる違いはあるが、E-B対応の中で電界の強さEが0となる導体と強い対応を示す。このため、初等電磁気学にMeissner状態にある超伝導体を導入することにより、電気材料における電気現象と磁気材料における磁気現象とが立体的な対応をなすことを示すことができ、教育上の利点がある[76,77]。


図36. 一様な電界の中に置かれた導体球(左上)と誘電体球(右上)の内外の電束の様子と一様な磁界の中に置かれた超伝導体球(左下)と磁性体球(右下)の内外の磁束の様子。

 (1b) 電気的分極と磁化
 電気的材料に電界を加えた場合には電気双極子が生じ、電気的な分極が起こる。これは導体でも誘電体でも同様であるが、電磁気学では真電荷による導体の静電誘導と分極電荷による誘電体の電気分極(誘電分極)との区別がなされている。一方、超伝導体と磁性体の磁気的材料に磁界を加えた場合の磁気的応答は単一用語の「磁化」にまとめられている。定義そのものは単位体積中に生じる磁気モーメントであるが、現実の定義は根本的に異なる。すなわち、磁性体では磁化は磁束密度と磁界の強さの差として局所的に与えられ、一方、超伝導体では、測定に関係して内部の磁束密度の平均値から加えた外部磁界を差し引いた、一つの超伝導体に対して一つ存在する巨視的な量である[78]。

 これに関連して、超伝導体における輸送電流による磁化を磁性体と同様に磁化電流による磁化としても説明ができるかどうかについての解釈が問題となった。しかしながら、中空の超伝導体を考えたとき、もし超伝導体の磁化が微視的な閉じた磁化電流の集合であるならば、内側表面にも磁化電流が残り、中空部分にも磁界が入り込むことになって、現実とは異なる。よって、超伝導体の磁化を磁性体の磁化と同様に議論することはできない。同様なことは中空の導体の静電遮蔽と誘電体の電気分極の違いについても言え、誘電体の場合は内側表面に分極電荷が現れるが、導体の場合には真電荷は現れない。したがって、導体の場合は単純な電気双極子の集合とはなっていない[77]。

 このように、磁化そのものが正となる磁性体と負となる超伝導体で根本的に異なるにもかかわらず、同じ「磁化」という言葉でくくることは問題があり、何らかの対応が必要であろう。

 (1c) 超伝導体の存在の予言
 E-B対応(もしくはE-H対応でも可)の中で電界の強さEが0となる導体に対応してBが0となる物質の存在を仮想的にせよ仮定することは基本的にMaxwell理論が完成してから可能であった。そうすると、その物質では磁束を遮蔽するために輸送電流が流れ続けることから、その物質の電気抵抗は0でなければならず、超伝導体の予言が可能であったことになる[77]。Maxwellの電磁理論はそれくらい有力な理論であるということになるが、実際にはそうした予言をした人はいず、Maxwell理論の完成後、ほぼ半世紀を経て超伝導体が発見され、そしてBが0となるMeissner効果は、それから22年遅れて発見された。

(2) 静磁気力からの磁気エネルギーの導出

 静電エネルギーは電荷間に働くCoulomb力に逆らって電荷を運ぶときの力学的仕事から導かれるが、磁気エネルギーは同様に電流間の磁気相互作用に逆らった力学的仕事からは得られない。これは電流間に引力が働くからで、このようになるのは電磁誘導があるからである。しかしながら、超伝導体からなる閉回路を考えた場合、磁束が保存されることから、電磁誘導の影響を受けることなく、磁気力に逆らった力学的仕事から磁気エネルギーを導くことができる[79]。逆に、通常の金属に電流が流れる場合に、こうして得られた磁気エネルギーから電流間の力を導いてみると現実のものとは異なる。この場合、さらに議論を進め、通常の結果になるという条件から電磁誘導の法則を予言することができる[80]。

(3) 誘導電界の統一記述

 電磁誘導については磁束の時間変化から誘導起電力を与えるFaradayの法則(磁束則)と磁界中を運動する導体の中に生じる誘導電界を与えるFlemingの右手則(運動則)があるが、別個に記述されており、統一的記述はない。一方、超伝導の電磁現象を記述する磁束の連続の式は磁束密度の時間変化を磁束の速度として記述することを可能としているので、その計算に十分注意を払えば、量子化していない通常の磁束においても「速度」は定義できる。したがって、時間的に変化する磁束密度の中を導体が運動するような一般的な場合に運動則の形で統一的に誘導電界を記述することが可能となる[81]。

(4) 等ベクトルポテンシャル面の提案

 Meissner状態にある超伝導体では磁束密度が0となり、その内部のベクトルポテンシャルを一定とすることができる(この一定値はあるスカラー関数の勾配となっていることに注意)。したがって、適用範囲は限られるが、等ベクトルポテンシャル面を定義することが可能であり、「等ベクトルポテンシャル面がある場合、ベクトルポテンシャルはその面内にある」「等ベクトルポテンシャル面がある場合、磁束密度ベクトルはその面内にある」などの数学的定理が存在することが示される。

(5) ポインティング・ベクトルの解釈

 一般にポインティング・ベクトルはエネルギーの流れを表すものとして議論されているが、その解釈をめぐって古くから議論のあるところである。例えば一対の導体平板に電位差を与え、この電界に垂直に磁石で磁界を加えたようなまったくの静的状態において、ポインティング・ベクトルは定義できるものの、エネルギー的にはまったく変化がないことから、「エネルギーが還流している状態を表している」と解釈することが妥当であるかという問題がある。このテーマは故入江冨士男九州大学名誉教授が低温工学誌の講座の中で議論しようとしていて他界された後、弟子である筆者と船木和夫九州大学教授とで、その意志をついで取り上げた。筆者らの結論は、ポインティング・ベクトルと実際のエネルギーの流れの間にはあるベクトルの回転で与えられる違いが存在し、したがって、ポインティング・ベクトルは必ずしもエネルギーの流れとは等しくないということである。上の例では、確かにポインティング・ベクトルは存在するが、エネルギーの流れはないと考える[82]。